100と8回

みんなと年越しソバも食べ終わり、惰性的にテレビを見ていたらいつの間にか日付が1月1日になっていた。
テレビの内容も世界の年明けの様子のものに変わっている。

「初詣行きたい!」
テレビ中継に触発されたのか、おもむろにリンが言い出した。

「ねえーレン行こうっ!」
「え・・・今から?」
「うん!メイコ姉いいでしょ?」

今夜中ですよ、外寒いですよ、人多いですよ、ってか正直メンドクサイです。
いやいやでも我が家の長であるメイコ姉様がダメと言ってくれれば行かなくて済むだろう。
そう思っていたけど、その考えは甘かった。

「そうねー折角だし行ってくれば?」
「やったー!!」

まさかの外出許可。
はしゃぎながら準備をするリンと渋々準備をするオレ。
遠くの方でぼんやりと除夜の鐘の音が聞こえた。


普段は閑散としている小さな神社もさすがに今夜はそれなりに人で賑わっていた。

「うわーすごい人!」
「はぐれるなよー」
とは言ったもののリンは夜店の綿飴やたこ焼きを見つけてはあっちこっち飛び回っている。
さっき年越しソバを食べたばかりなのに、どうやら除夜の鐘はリンから「大食」という煩悩は払ってくれなかったようだ。

ぼんやりとそんなことを考える。
人の流れは途切れるどころか益々その数を増やしていく中、

案の定リンとはぐれた。

まあ、はぐれたとは言ってもそんなに大きい神社でもないし、家から徒歩15分くらいだから一人でも十分帰れる。だからそんなには心配しなくてもいいんだけど・・・。
辺りをキョロキョロと見回し、リンらしき人物がいないか探す。向こうは歩き回ってるはずだからこっちはあんまり動かないほうが得策だろう、そう踏んで目立つ狛犬の前でじっとしている。

だけど、5分経って、7分経って、8分経って―――。
辺りに気を配って入るけど一向にリンは見つからない。時計を確認する感覚がどんどん短くなっていく。

もしかしたら変な人や危ない人に引っかかってるのかも・・・。新年だから浮かれた奴も多い。それにリンのことだから食べ物につられてふらふらと付いていってしまう可能性も高い。
イヤな予感が胸に広がる。
こんなんだったら、ずっと手でも握っておけばよかった。後悔してももう遅い。

よし、探しに行こう、そう思って一歩踏み出したとき、

「レンっ!」
見慣れた金髪と白いリボンが目の前に飛び込む。

「もう、どこにいたのよ!探したんだから!!」
その理不尽な言い方に本来なら怒りが湧いてもおかしくないところだけど、どうやら安堵の気持ちのほうがずっと大きかったらしく、オレはリンの足元にへたり込んだ。
こっちの気も知らないリンは、疲れたの?なんて言っている。無事でよかったからいいものの、今年もリンに振り回される年になりそうだ。




「あっレン、あっちで甘酒配ってるよ!」
神社の趣向で参拝客に振舞っている甘酒を目ざとく見つけたリンは、早速そっちのほうへ駆けていく。
長い行列を並びきってお参りをし、ついでにおみくじまで引いたのに、リンはまだまだ元気みたいだ。
オレ疲れたんで帰りたいです・・・。
本音を飲み込んでリンの後を早足で追いかける。またはぐれたりしたら元も子もない。

「あったまるー!」
「うん」
とろりと熱くて甘い甘酒は冷えて疲れた体には嬉しい。

「おみくじどうだった?」
「末吉」
「うわっビミョーだね〜」
「うっせ、リンはどうなんだよ」
「だいきちっ!」

ちゃっかりとお代わりをもらった甘酒に口付けながらリンはピースサインをしてみせる。
ちなみにオレのおみくじには身近な人物に悩まされると書いてあって、もう既におみくじ通りになっている自分に涙目だったりする。

「さっ、もういいだろ帰ろう」
空になった紙コップを近くにあるゴミ箱に捨てると、リンは慌てた様子で半分ほど残っていた甘酒を一気に飲み干して、先を歩くオレの隣に小走りでやってくる。
肩が並んだのを確認して、歩調を揃えて歩き出す。
だけど、リンの歩く速度が普段より遅い気がした。というか実際に遅い。そしてどことなく足元が覚束ない。
挙句、きゃっ、と自分の足につまづいた。

「大丈夫?」
受け止めたリンを立たせながら聞くと、トロンとした瞳がこちらを向く。
これはもしかして・・・。

「うん、らいひょうぶ、らいひょうぶ」
いつも以上に舌足らずな口調に確信する。
リンは酔ってる。
まさか甘酒2杯で酔うなんて・・・。

でもレンあったかーい、なんて言いながらオレの腕をぎゅっと掴むリンはなかなか可愛くて。
暗闇なのをいいことに深めキスをする。

「んっ、、ふぁっ・・・」
唇を離すといつもより短い時間なのに、いつもより呼吸が荒くて、瞳も潤んでいて、なかなか感度がいいみたい。
マフラーの隙間からそっと項の辺りに触れれば身体がビクッと反応し、小さなうめき声を上げる。

「んんっ、いやぁ」
普段とはちょっと違う感じの艶のある声に、思わずこっちがゾクッとする。
ってかまだ軽く触ってるだけですよリンさん。ゆっくりゆっくり焦らすように首を触れば、腕を掴む力が強くなるのが分かりこちらの熱も自然と上がる。

「れぇ、ん・・・早くおうちかえろぉ」
「それは、つまりこの続きしたいってこと?」
わざと意地悪く聞けば、素直にリンはコクンと頷く。

それならそうと、早く帰ろう。
逸る心を落ち着かせながら、これも十分身近な人物に悩まされてることの一つなんだろうと考える。
除夜の鐘はオレの煩悩も取り払ってくれなかったみたいだ。