コスモスが咲くまでに

それはほんのちょっとした好奇心から。

「ねえ、」
「うん?」
「ミクオって普段は何て呼ばれてるの?」

秋の良く晴れた日、私とミクオは肩を並べて土手で日向ぼっこをしていた。
空は吸い込まれそうなほど青く、高く、澄んでいた。
湿気の少ない心地よい風は髪の毛と、土手いっぱいのコスモスの蕾を揺らしている。

うーん、と時間をかけて悩んだミクオはぽつりと

「クオって親しい人は呼ぶよ」
と答えた。

「ク、オ・・・?」
「そう、クオ」

ミクオは私に微笑んでみせた。
私はその涼やかな微笑みにドキリとする。
本当に私はこの笑顔に弱いなぁとつくづく思う。

「クオ、クオ・・・」

語感を確かめるように、小声で何度も繰り返す。
ああダメだな。
やっぱりちょっと恥ずかしい。
ミクオが言っていた親しい人の存在がかなり羨ましい。

なんて、思ってしまうのは図々しいかな?
黙って私の様子を見ていたミクオが口を開く、

「クオって呼んでくれる?」
「えっ・・・?」

それは、つまり、ミクオの親しい人になってもいいということ・・・?

「だめ?」
「ううん!!呼ぶっ・・・」

私は慌てて否定する。
じゃあこれからはクオね、とミクオはとても嬉しそうに言った。
そして期待の眼差しで私を見つめる。

「クっ、クオ・・・」
「うん?」

私の必死の呼びかけにミクオはとても満足そうな顔をする。
振り回されてるなぁ、と感じつつも私は恥ずかしくなって下を向いてしまう。
クオと普通に呼べるまではまだまだ練習が必要みたい。

だけど、あんな嬉しそうな顔をしてくれるなら・・・。
せめてこのコスモスが咲くまでには呼べるように。