拍手だったもの(クリスマス版)
前略/ミルク/ハウスという漫画のパロディです。
原作知らなくても読めるようにはなっていますが、パロディ苦手な方はバックして下さい。
前略・ボカロハウス
それはクリスマスにほど近い冬の朝のこと。
「これ、どうしたの?」
テーブルに置かれた小さな、でも綺麗にラッピングされた小包を指してメイコが問う。
「今朝、ポストの中に入ってたんの。差出人も宛名もないからどうしようかと思って・・・」
ミクが軽く小包を持ち上げてみせる。
「ねーねー開けてみようよっ!」
リンが興味津々に提案する。
「間違いかもしれねーじゃん」
「えーでも中身知りたいよー!ねえ、カイ兄?」
レンに正されたリンだが、すかさず自分に甘い長兄に同意を求める。
「まあ、警察に届けるにしても中身を知らないとだからね〜」
カイトがそう言うとリンはやったぁと手を叩いて、ミクに開けるよう促す。
実はミクも中身が知りたかったのだろう、許可が降りるとわくわくとした手つきで包装を解き始める。
「・・・・・・・あれ?」
包装紙の下に隠されていた小箱。そしてその中には、
「口紅だ」
1本の口紅が静かに陳列されていた。
「ちょっと、見せて・・・!」
メイコがミクから口紅を受け取り、蓋を開けきゅっと中身を捻りだす。
「わぁきれいな色・・・!」
その中に眠っていたベビーピンクにミクが思わず感嘆の声を漏らす。
「まさか、ね・・・」
「あれ、めーちゃん心当たりあるの?」
うっとりと口紅を眺めているメイコにカイトが尋ねる。
口紅をしまいながらメイコがゆっくりと話し出す。
「昔ね、歌いだして間もない頃・・・」
「古き良きアイドル時代だね!」
バコッ☆
倒れているカイトを無視してメイコは続ける。
「初めて私のファンだって言ってくれた人が口紅をくれたの。
それから、クリスマスや誕生日の度に口紅をくれてね・・・。1本増えるごとに色が少しづつ濃く赤く染まっていって、
いつか真赤な口紅が似合うようになったら・・・・・・結婚しようって言われたの」
「すてき・・・」
「いいなぁ・・・」
口を揃えてミクとリンが言った。
隣でその話を聞いていたレンは二人の様子に呆れた顔をしている。
「最初の色がね、ちょうどこんな色だったの」
それは紅をさしたかどうかすらもわからないような淡い淡い色。
「結局フラれちゃったんだけどね」
そう付け足しながらもメイコは微笑んでいて、その頬は口紅と同じ淡いピンク色に染まっている。
「その人も今の酒乱めーちゃん見たらフッて正か・・・」
バキッ☆
「ねっ、ねっその口紅その人からじゃない??」
「さすがにそれはないわよ〜」
「じゃあ、きっとその話をお姉ちゃんから聞いた人が真似してお姉ちゃんにプロポーズしてるのよっ!!」
「ええ〜まさかぁ」
「そうよ、絶対そうよ!!ロマンチックだわ」
興奮しているミクをなだめるように苦笑しているメイコだったが、まんざらでもなさそうで。
「そうね、クリスマスだし信じてみるのもいいかもね」
と夢みる少女の瞳で答えた。
その様子は普段のメイコと違って幼く、でもすごくキレイに見えた。
前略・ボカロハウス2
口紅が届いてから数日が経ち、明日はイブ。メイコは口紅が届いてからひどくご機嫌だった。
その理由は本人いわく、プロポーズが本物なら明日また口紅が届くはず♪
だからなのだが、その言葉は他の家族の心中を不安にさせる。
もし届かなかったら・・・・・・。
楽しみにしているメイコを見ると間違いだったかもとは言いづらく、プロポーズが本物で相手がマメなことを祈るばかりである。
「ミク姉さー」
「うん?」
「メイコ姉あんなにノリノリだけど、もし明日届かなかったらどうする?」
「えーリンは届くと思うな〜!」
「そりゃ、オレだって本物であってほしいよ、だけど・・・」
「だ、大丈夫よ!あれは絶対真実のプロポーズよ・・・!」
「でも・・・」
「レン君は男の子だから夢がないのっ!!いいもん私だけでも信じるもん!!」
ミクの中にも不安がないわけではない。
けど、あの淡く優しいピンク色に込められた思いは本物であってもらいたいのだった。
「ミク姉怒っちゃったね〜」
「・・・みんな現実を見てなさすぎなんだよ」
「そうかな〜、あたしは憧れるよっ!誰かしてくれないかな〜?」
「・・・・・・リンには10年早いよ」
ハァと盛大なため息をレンは吐いた。
明日のクリスマスイブ。一体どうなることやら・・・・。
前略・ボカロハウス3
今日はいよいよ運命の別れ道である24日。
賑わう商店街に買出しにきたミクはふと化粧品店の前で足を止める。
クリスマスセールや限定商品で綺麗に装飾された店にはもちろん口紅もある。
ふと届いた口紅より一つ濃い、それでもまだ淡いピンクの口紅を手にしてみる
今日、口紅が届かなかったらメイコはさぞがっかりするだろう。
(その気にさせちゃったのは、私でもあるし・・・)
口紅を手の中で転がしながら考える。
もしこれをこっそりポストの中に入れておけば、メイコはきっと悲しまずにすむ。
だけど、それは同時にメイコの信じてる心を踏みにじってる気がした。
(お姉ちゃんが信じてるんだもん!私だって信じなくちゃ・・・!!)
心の中でそう唱え口紅を元の場所に戻す。
そうあの口紅に込められた想いは真実じゃなきゃいけないのだ。そう思いながらミクは家路に向かった。
ミクが家に帰ると、メイコ以外の人の顔が軒並み不安で翳っている。
もし口紅が届かなかったら・・・言わなくてもみんなの心の中は同じだろう。
その時、
「お届けものでーす!」
玄関から声が聞こえた。
みんなの顔に安堵が浮かび、嬉しそうな足取りでメイコは荷物を受け取りに行った。
だけど、メイコが荷物を持って部屋に戻ってきたとき、みんなの顔が一斉に曇る。
なぜなら届いた数は全部で4つだったから―――。
そのどれもが同じような箱と綺麗なラッピング。
テーブルの上に置いて一つ一つ、丁寧に開けていくと案の定中身はどれもピンクの口紅。
「ぜーんぶピンクの口紅。消印も近くの郵便局の速達」
中身を確認し終えたメイコがみんなのほうを向く。
「しかも数は4コ。どこぞの人数と合う数だこと」
気まずい空気が流れ、みんな視線をメイコから逸らす。
「ちょ、ちょっと待って4コ!?」
ミクが慌てる。
「お姉ちゃん、それ一個ホンモノよ!私送ってないもの!!
やったー!やったー!あれは真実のプロポーズだったのよ!!」
そう言ってミクは自分のことのように喜んでメイコに抱きつく。
「・・・・・・ふふふふふっ」
「??」
急に笑い出したメイコにミクの頭に疑問符が湧く。そして、
「ごめんねミク、1コは自分で出したの」
と白状した。
「だってねぇ、やっぱり届かなかったら寂しいじゃない?」
「・・・信じてなかったの?」
「信じてなかったわけじゃないけど、、、」
さっきまで自分のことのように喜んでいたミクは、
しぼんだ風船の様にしょんぼりとしながらメイコを言及している。
「夢は夢だから」
そう言って微笑みながら涙目のミクの頭を優しい手つきで撫でる。
「でも今はみんなの気持ちが何より嬉しいのよ!特にカイトやレンなんて口紅買うの恥ずかしかったでしょ?」
2人のをメイコが向くと、2人とも顔を赤らめてそっぽを向いた。
「ミクは最後まで信じてくれたし、これってどんなプロポーズよりすごいことだと思うわ!」
残念じゃないと言ったら嘘になるだろうに、それでもメイコは嬉しいと言ってくれた。
そのメイコの幸せそうな笑顔にみんなは思わず顔を赤らめた。
「さっ今夜はクリスマスパーティーよ!じゃんじゃん飲むわよ〜!!」
「今日は僕もとことん付き合うよ」
「アラ珍しいわね」
「ヤケ酒には愚痴る相手も必要でしょ?」
「言ってくれるわねぇ〜」
「リンもお酒飲みた〜い!」
「未成年はダメよぉ」
メイコのベクトルは既にお酒に向いてるようで、別の意味で幸せそうである。
レンは切り替え早いな、と苦笑していたが、ミクは気づいていた。それがみんなをしんみりとさせないためだと言う事を。
そして、未だに心の中ではやっぱり信じていた。
最初の口紅はプロポーズであること。
こんなに優しくて素敵なメイコのことを見てくれてる人が絶対にいるはずだと。
前略・ボカロハウス4
「結局最初の口紅は誰が置いたんだろうね」
ケーキをつつきながらミクがリンとレンに聞く。
カイトとメイコはテーブルから離れたソファーで二人仲良く晩酌している。
「う〜ん、やっぱり間違いだったんじゃないかな・・・?」
「そう、なのかなぁ」
「それ以外なくない?」
「実はさー、オレ知ってるんだよ」
「「えええっ!?」」
レンの発言に思わず二人の声が重なる。
「言っていいのかなー」
頭をがしがしと掻き悩みながらも少し間を空けた後、
そっとカイトを指し示した―――。
「「!!」」
二人とも驚いて一瞬声が出なかったらしく口をパクパクさせていた。
「レン君、それ本当??」
「カイト兄が最初の口紅買ってるところ見かけちゃったんだよね」
「なぁーんだそういうオチかぁ」
リンがテーブルに突っ伏す。結局は灯台下暗しだったわけである。
「でも良かった」
「何が?」
「お姉ちゃんを思う人がお兄ちゃんで」
そう言ってミクは仲良く飲んでいる二人を見つめる。
「たしかに、、、」
「お似合いだよね」
リンとレンも二人の様子を見つめた。
クリスマス、お正月、バレンタイン・・・これからある沢山のイベント毎に口紅が届くのだろう。
その色は少しづつ濃く鮮やかに染まっていき、最後の口紅が届く頃には二人の思い出も増え色褪せることのない大切なものになればいい。それはこの場にいる人全員のささやかな願い。
merry christmas・・・!
前略・ボカロハウス おまけ
「ハイ」
ケーキを食べ終え自分達の部屋に戻ったリンにレンは可愛くラッピングされた小箱を差し出す。
「えっ、、、もしかして・・・・・・!」
キラキラした目でリンは小箱を受け取り、丁寧にその包装紙を開けると、中身は予想通り口紅だった。
色はもちろん淡いピンク。
(いいなぁって言ってたこと覚えててくれたんだ・・・)
可愛らしいバラの蕾のようなその色を見ながらリンは何だか嬉しくなる。
「何ニヤニヤしてるんだよ」
「別にぃ」
「それより、付けて見せてよ」
「えっ!あっ・・・・・・うん!」
レンに言われリンは慌てて口紅を取り出す。
近くに鏡が見当たらないため、リップを塗る感じで口紅を唇にあてる。
「ど、どうかな・・・・・?」
「ちょっと濃いかも」
「え、じゃあティッシ・・・」
全てを言い切る前にリンの口がレンの唇によって塞がれた。
「うん、これでちょうどいい」
満足気にレンは頷いた。
少し薄くなった唇と少し濃くなった唇。
そして赤く染まった頬。
そっと身を寄せると柔らかく抱きしめられ、もう一度二人の吐息が重なった―――。