お化けカボチャの夢を見る
ハロウィンが近い今日この頃、街並みはクリスマスほどのきらびやかさはないものの、可愛く装飾されていて、一人で街を歩いているだけでも心が踊る。
まして隣に気になる人がいるなら、尚更。
「ねえ、クオはハロウィンに何かする?」
私はごく軽い気持ちで聞いた。
自分はハロウィンに関係する歌を歌ったり、31日には本格的な仮装はしないものの、カボチャのお菓子を作ったり、ジャック・オ・ランタンを飾ったりとハロウィンを楽しんでいたから。
「僕?いいや、特になにも・・・」
クオはすぐ答えたけど、その後少し間を空けて
「と言うか、ハロウィンてよくわからないんだ」
と答えた。
「えっ、そうなの!?」
「うん。なんか仮装してお菓子配ってるよね?」
「違う、違うっ!!」
私は大きく首を横に振ってクオの言葉を否定した。
それ、多分街中でビラ配りなんかのちょっとした趣向だと思う・・・。
「ハロウィンはね・・・」
そんなに詳しくはない、と言うかほとんどお兄ちゃんからの受け売りだけど、それでもクオよりはずっと豊富で正しいハロウィンの知識を教えてあげた。
「そっか、トリック・オア・トリートってそう言う意味だったんだ」
クオは街中でその言葉を見かけても何のことか分からなかったみたい。
「あのカボチャにもちゃんと意味があったんだね」
てっきり食べるためだと思ってた、なんて笑っている。
「あそこまで何も知らないなんて、ちょっと意外だよ」
私は苦笑気味に言った。本当にクオはハロウィンのことをほとんど知らなくて、正直私は驚いた。
でも興味ないと案外こんなものなのかもしれない。
私の家は他のみんな、特にリンちゃん、レン君がハロウィンで盛り上がるから季節の行事の一つになるだけで、クオの家も同じとは限らない。
「ねえ、クオって何人家族なの?」
ちょっと気になったから聞いてみる。
「一人、暮らしだよ」
「一人暮らしって、寂しくない??」
その答えに私は率直な気持ちで聞く。
だって私なら、多分一人暮らしなんてできない・・・。
「うん、大丈夫だよ」
クオはちょっと目を丸くしてそれから、ミクにも会えるしね、と付け加えた。
私はさり気なくクオが言ったその一言がとても嬉しかったけど、極力表には出さないようにした。
小さなことで一々喜びすぎなのだ私は。
そんなんじゃ、きっとクオもうんざりしてしまうと思う。
街は次第に闇を帯びてきて、道行く人たちはどことなく忙しなく歩いているように見える。
その時、私の目に一軒のお花屋さんが飛び込んできた。
「クオ、ちょっとここで待ってて」
そう言い残して私は花屋に駆け込んだ。
「お待たせっ!」
ほんの5分ほどで買い物は済んだ。
持つよと言ってクオは私の荷物を受け取る。
「何買ったの?花じゃない、よね・・・?」
「うふふ、秘密」
クオは私の様子に不思議そうな顔をする。
「ねっ、公園寄って帰ろう」
私が提案するとクオは笑顔で頷いて、空いてる方の手を差し伸べた。
私はその手をぎゅっと握り返す。
公園に着いて、私達はいつものベンチに腰掛けて、早速さっき買ったものを袋から取り出した。
「じゃーん!!」
「あっ・・・!!」
私が効果音付きで取り出したものは、両手で軽く抱えるくらいの大きさのジャック・オ・ランタンだった。
中にはちゃんとロウソクも入っていて、ランタンにすることができるやつ。
「うわーすごい、すごい、中にロウソクまで入ってる!」
クオは予想以上にはしゃいでいて、私は普段とは違うクオの一面を見れて得した気分だった。
「マッチも買ったから、火つけましょ」
私はカボチャをベンチの上に置いて、マッチでロウソクに火を灯す。
オレンジ色の暖かい光がカボチャから漏れて見入ってる私とクオの顔を照らした。
「きれいだね・・・」
「うん・・・」
2人だけの、ちょっと早いハロウィンパーティーはなんだか秘密を共有してるみたいで、くすぐったい気持ちになる。
「ねえ、ミク」
クオに名前を呼ばれて顔を上げる。
「なに?」
「トリック・オア・トリート」
さっき意味を教えたばかりの言葉をクオが言った。
クオの顔は悪戯を思いついた子供みたいにニコニコしている。
「あっ、」
私は思い出してポケットに手をやる。
そしてクオの手にコロンと一つ飴を乗せた。
「さっきお花屋さんでもらったの」
そう告げるとクオは
「なんだ、お菓子持ってたのか」
と言った。
えっ?と聞き返すと、クオは何でもないと首を振ってあげた飴の袋をあけて口に含んだ。
トリック・オア・トリート―――。
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ―――。
もしあげなかったらどうなっていたんだろう。
空には三日月が笑っていて、ジャック・オー・ランタンの炎は優しく揺らいでいる。