ひとつだけ

部屋のドアを開けると灯りはついてなくて、
ぼんやりと窓辺に誰かがいるのがかろうじて分かった。

「リン・・・?」
問いかけると、誰かがゆっくりと振り返るのがさっきより暗闇に慣れた目で確認することができた。

「あっ、レン」
誰かの正体はやはりリンでオレは、灯りもつけないで何してるの?と聞きながらリンの傍に寄った。

「えっとね、もうすぐ七夕だから天の川見えるかなーって」
そう言ってリンは体を戻し、また窓の外を眺めだした。
確かに今日の夜空は雲がなく、星がよく見えそうだった。

「どう、見える?」
「ううん。やっぱり街中だと見えないみたい。」

残念そうにリンは言った。

「でもね普通の星なら見えるよ。とってもきれい」

その言葉につられてオレも窓の外を眺めた。
風がサッと入り込んできて二人の間の空気を混ぜた。


「ねぇ、レン、」
「うん?」
「レンは七夕の日に何をお願いするの?」

興味津々そうにリンがこちらを見て聞いてきた。
オレはう〜ん、と悩むフリをする。別に七夕ってわけではないが願い事はある。
でもそれをリンに言う気はなかった。

言ってしまったらリンはどんな顔をするだろう。苦笑いとかで済むならまだいい。
サイアク嫌われたり、避けられたりする可能性も大きい。
わざわざそんな危険な橋を渡りたくはない。

「なぁに、考えてないの〜?」

レンはロマンがないんだからぁ、くすくすリンが笑う。
そう言うわけじゃないけど、何とか答えなくても済みそうでホッとする。

「じゃあリンはあるのかよー?」

今度は逆にこっちが聞いてみる。たぶんヒ・ミ・ツ・ーとか言ってごまかされると思っていたら、

「言ってもいいけど、、、笑わない?」
とどうやら話してくれるみたいだった。

「笑わない、笑わない」
と軽い調子で返事をしたら、

「もぅ、絶対笑わないでよねー」
とちょっと頬をふくらませて念を押す。

そして一息ついて、

「あたしの願い事はね、ずっとレンと一緒にいられますように、だよ」

なんだか言葉にすると恥ずかしいね、と照れながらリンが付け足した。
オレは笑うどころか驚いた

だってそれは、

オレと同じ願いだから。

「レン・・・?」

どうしたの、という顔でリンがオレを見る。
オレはわずかな隙間すら埋めるようにリンに近づいて、
そっとリンにキスをした。

とても長い一瞬だった。
唇を離してオレはリンに告げる。

「その願いだったら、もう叶ってるよ。」

リンがキョトンとした顔をする。

「だって、オレの願いも同じだから。」

オレのたった一つの、そして叶うことのないと思っていた願い事。
リンは状況を理解すると、ふわっと微笑んで

「じゃあこれからも、ずっと、一緒だね」
と言った。


ここからじゃ見えないけど、夜空のどこかに天の川あるだろう。

二人を遮るもがなくなればいい。

今はただそれだけを星に願った―――。