夏と花火と彼女と浴衣
ダダダダッと廊下から足音が聞こえたかと思うと、勢いよくリビングの扉が開かれた。
「じゃーん、レン見て見てっ!」
何事かと思ってオレはドアのほうに目をやると、そこには浴衣姿のリンがいた。
「どう、似合ってる?」
浴衣の袖を持ってリンはその場でくるっと回ってみせた。
「リンちゃんあんまりはしゃぐと着崩れるよ」
リンの後ろからミク姉も浴衣姿で部屋に入ってきた。
ああ、そういえば今日は近くの川原で花火大会だったっけ。
リンと一緒に行く約束していたことを思い出す。
そんなことを考えながら改めてリンをもう一度見た。
リンの浴衣は紺地に赤い琉金が優雅に泳いでいる柄で、
リンには不釣合いな大人っぽいデザインだった。
だけど、リンが髪をまとめてアップにし、さらに薄く化粧までしているせいか違和感はなかった。
むしろ普段と違うリンの雰囲気にオレは少しドキドキしていた。
「ねー、もしかして変・・・?」
あんまりにもオレが何も言えずにいたため、リンが痺れを切らして聞いてきた。
「えっ、、、あ、似あ・・・、」
似合うよ。
そう言おうとした瞬間、
「うわー、二人とも華やかだね〜」
部屋に入ってきたカイト兄の第一声にオレの言葉は飲み込まれた。
その一言にリンはすぐにカイト兄のほうを向く。
「ほんと!?カイ兄?」
「うん、リンもミクもすごくかわいいよ」
オレが言いたかった言葉をカイト兄はさらりと言ってしまった。
妹達に甘い兄はその後もデレデレと二人をほめる。
リンはすごく嬉しそうで、ミク姉と一緒にきゃっきゃっとはしゃいでいた。
この状況は軽くへこむ・・・。
「浴衣を着てるってことはお祭りでもあるの?」
「今日、近くの川原で花火大会があるの」
「ああ、じゃあ二人で行くんだ?変な人には気をつけなきゃダメだよ」
「違うよー、ミク姉は友達と行くんだよ!リンはレンと行くのっ!ね、レン」
三人の話を流して聞いていたオレは急に話を振られてビックリしたが、
オレの返事を聞く前にリンはカイト兄との会話に戻っていた。
まあ、いいんだけどね。
それに二人っきりになればさっき言えなかった言葉も言えると思った。
もう一度リンのほうを見る。
やっぱり今日のリンは一際かわいい。
そんなことを考えていたら、ミク姉がそっと近づいてきて耳打ちした。
「リンちゃんね、レン君にどう思われてるかすごく気にしてるよ」
そう言ってミク姉はクスッといたずらっぽく笑った。
その顔には書いてある。
ちゃんと言ってあげてね。
似合ってるって。