夏と花火と彼女と浴衣2

結局、オレは花火大会の間リンに浴衣似合ってるよとは言えなかった。

帰り道、だんだんと客足がまばらになっていく中、オレは自己嫌悪に陥った。
ミク姉にも釘を刺されたというのに。
でも、肝心のリンはそのことを気にしている様子は全然なくそれがまた何とも寂しかった。
カイト兄にかわいいって言ってもらったらそれで満足かよ。
そんな風にさえ考えてしまう自分がいる。


「花火きれいだったね」
下駄をカランコロン鳴らしながらリンが言った。

「ああ。」
「焼きそばもたこ焼きも綿あめも全部おいしかったね」
「リンは食べすぎ。花火見にきたんじゃないのかよ」
「だってどれもおいしそうなんだもん」
「はいはい」

こういう減らず口ならいくらでも言えるのに。
一番言いたいことが言えない。


「あっ、」
隣を歩いていたリンが急に立ち止まってかがみこんだ。

「どうしたの?」
「足の皮がやぶけちゃった・・・」
見ると鼻緒で擦れたらしく足の皮が破れて血が滲んでいた。

「ばんそこうとかは?」
「持ってない・・・でも家まであとちょっとだから我慢する」

微笑みながらリンは立ち上がるが、歩き出す瞬間顔をしかめた。

やっぱりムリしてる。
見かねたオレはリンの前に背を向けてしゃがむ。

「え?」
「ケガしてんのに無理して歩くことないだろ」
「でも、私重いよ!?」
「大して変わんないだろ。さっさと乗って」

リンは最初こそ渋っていたけど、結局はおそるおそるオレの背中に乗ってきた。
リンを背負ってオレは歩き出す。
手に持った下駄が歩く振動でカラカラと音を立てる。

「なんかレンにおんぶしてもらうのって変な感じ」

リンの顔は見えないけど多分笑ってる。
そんな気がした。

今なら 言える。


「リン、その・・・浴衣似あってるよ」

しばらく沈黙があった。


「・・・・・・・今更ァ!?」
「えっ・・・?」
リンの予想外の反応と声の大きさに思わず驚く。

「もう、その言葉ずっと待ってたんだよ!! がんばってお化粧までしたのに、
 レンったら何も言ってくれないんだもんっ」
「ご、ごめん」
一気にまくし立てられオレは謝罪の言葉しか出てこなかった。

「わかるならよろしい。でも、ホントに不安だったんだよ」

リンが怒ってないことは口調でわかった。
そして言ってることが本心だってのもわかる。

「リンが普段と違いすぎて、・・・ちょっとドキドキした」

多分今のオレの顔は真っ赤だろう。
リンに顔が見られることがないってわかってるから言えた。

「浴衣も、髪型も、化粧も、、、なんっつーか不意打ち攻撃だった」

精一杯の本心をつげる。

「ホントに!?」
「うん」
「やったね」

リンは機嫌上々で首に回している腕に力を入れて、ぎゅっと更にひっついてきた。

「暑いからあんまりくっつくなよ」

「やーだ、やめない」

見えてないのにリンの満面の笑みが浮かぶ。
内心オレもいやではない。

背中に乗ってる愛しい熱の存在。
暑いのはくっついてるからだけじゃないと思う。