夏と花火と私と浴衣

約束の時間よりも10分も早く待ち合わせ場所の橋に着いてしまった。
当然ミクオはまだ来てなくて・・・。
がっついてるって思われちゃうかな、私。

周囲はこれから花火大会に行くであろう客でにぎわっていた。
その人混みの中から私と同じ髪の色をした人が見える。

決して間違えたりしない。
あれはミクオだ・・・!

「ごめん、待った?」
私を見つけたミクオは駆け足で寄ってきた。
「ううん。私が早く着きすぎちゃっただけ」
微笑むと、ミクオは黙ったまま私を見つめていた。

その瞳にドキッとしてしまい、瞬時に下を向いてしまった。
時間にすればほんの数秒だったかもしれないけど、
私にはひどく長い時間のように感じた。
ミクオはもう私を見ていないかな、と思い頭を上げると、ミクオと視線が合った。

私はまたドキッとしてしまい下を向いてしまった。

「浴衣似合ってるよ」
上から言葉が降ってきた。
私は顔を上げる。
ミクオはニコニコと私を見ていた。

「すごく、かわいい」
今度は目を合わせて言われた。

私の体温は急上昇した。
心臓がバクバク鳴って痛いくらい。
全部ミクオに見透かされてる気がする。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、
ミクオは私の手をとって歩き出す。

「行こっ、穴場見つけておいたんだ」
熱い自分の手のひらに比べてミクオの手はひやりとしていた。
ミクオに初めて会ったときもそう感じたっけ―――。

「うんっ」
少しよろけたど、ミクオがしっかりと支えてくれて私は転ぶことなく歩き出す。
歩いてる間は無言だった。

すごく緊張してしまう自分が憎らしい。

繋いだ手から全てが伝わりそうでこわかった。

その時、どこからかいい香りがした。
周りを見ると鈴カステラが的屋さんで売っていた。

「あっ、」
思わず声を上げミクオの手を振り切っていた。
「どうしたの?」
ミクオが立ち止まる。
「ううん、何でもない」
私は慌てて首を振る。

「そう、なら急ごう。花火始まっちゃう」
そう言ったミクオは手を繋がずに前を歩き出す。


私はさっきまであんなに緊張していたのに、空いた手が急にさびしくなった。
前を歩くミクオの姿を見ながら少し後悔した。