夏と花火と私と浴衣2
まだ少し明るい夜空に花火が色鮮やかに散っていく。
ミクオが連れて来てくれた場所は人がまばらなのに花火はしっかり見える穴場に違いなかった。
そんな絶景ポイントで私は一人で花火を見ていた。
ミクオはさっきトイレに行って来ると言ってこの場所を離れてしまい、まだ帰ってきていない。
残された私は、なす術もなく、一人ポツンと花火を見ていた。
ドーン、ドーンという音とともに赤や緑の花や、金色の枝垂れが夜空に咲いては消えていく。
それはとてもキレイで、ちょっと切なくて・・・。
ボンヤリと花火を見ながら考える。
かわいいよ、言ってもらって、手も繋いでくれたのに。
一人で勝手に浮かれすぎちゃったかなぁ・・・。
ハァとため息を吐いて下を向く。
視界の端に映った紫とピンクの小花がぐにゃりとゆがむ。
ミクオは、私に愛想をつかしてしまったかもしれない。
このまま戻って来ないことだって十分あり得る。
考え出したらどんどん不安になっていった。
その時、
「ごめん、待たせすぎちゃった・・・」
急声がした方を向くと、ミクオがはぁはぁと肩で息をして立っていた。
ミクオが戻ってきてくれた。しかも息を切らせるほど急いで。
「思ってた以上にコレ並んでて」
そう言って私に紙袋を渡す。
「あっ・・・!」
私は思わず声を上げていた。
その中には可愛らしい鈴カステラがふんわりと湯気をたてて入っていた。
「ミク、さっきコレ見てたでしょ?」
あの一瞬のことをミクオは覚えててくれたのだ。
そして私のために並んで買ってきてくれたのだ。
「あれ、ミクもしかして・・・」
ミクオが私の顔を覗き込む。
「もしかして泣いてた?ごめん、一人にしすぎちゃったよね」
慌ててあやまるミクオに私は気が緩んで、涙が一粒こぼれる。
でもそれを急いで拭う。
「ううん、平気。ミクオが戻ってきてくれたから」
「ほんとに、ごめん・・・」
なお謝ってくるミクオに私は微笑む。
「ね、それよりこれ一緒に食べようっ」
そう言って鈴カステラを取り出す。
周囲には卵とハチミツの優しい香りが広がった。
その香りは寂しかった気持ちを幸せな気持ちに変えてくれる、魔法のような香りだと思った。