ラムネ

「リン、レン朝よ!起きて!!」

メイコ姉の声が階下から響く。寝ぼけ眼で時計を見ると針は8時を指していた。
今日は日曜日。予定は何もないはずなのに、こんなに早く起こされるなんて。
向かいのベッドで寝ていたリンも「えー、まだ8時じゃん」と文句を垂れている。
そんなオレ達をよそにメイコ姉が部屋に入ってきてカーテンをジャっと開ける。

「下に朝ごはん用意してあるから、顔洗って、着替えて食べること!」

メイコ姉は一気にまくし立てると部屋から出て行ったしまった。
窓からは朝日がキラキラと部屋に注ぎ込んでいて眩しかった。


まだまだ眠たそうなリンを引っ張ってオレはメイコ姉に言われた通り、
顔を洗って朝ごはんを食べた。時計は8時45分。
テレビの天気予報は今日が晴天で絶好の洗濯日和であることを告げている。
ミク姉とカイト兄は昨日からの歌の収録が続いているのだろうか、姿が見えなかった。
ふと、リンの方を向くとまだうつらうつらと眠そうな顔をしている。

「おーい、リンいい加減起きろー」
「うぅー、レンまだ寝てたいよー」

そんな時メイコ姉が両腕いっぱいにシーツを抱えて部屋に入ってきた。

「さあ、今日は2人にこれを洗ってもらうわよ!」

「げぇっ!」

思わず声が出てしまった。
リンはというと眠りの国から連れ戻されたのか、オレと同様にげぇっと言う顔をしている。

「こんないいお天気ですもの。普段洗わない大きなもの洗ってもらいたいの」
さも当然のようにメイコ姉が言う。

「洗うって、手で・・・?」
おそるおそるリンが尋ねると、

「手っていうか、足踏み洗いかな。今桶持ってくるから、外にこれ持って行ってて」
そう言ってシーツとベッドカバーをオレ達に託すと桶を取りに部屋から出て行ってしまった。

(メイコ姉人使い荒すぎ・・・)

メイコ強制モードに内心涙を流していたら、リンは案外乗り気らしく「足踏み楽しそう!」
と目を輝かせていた。そして、

「レン、一緒にがんばろうね!」

くるっとこっちを見て同意を求めてきた。
さっきまで嫌そうだったのに・・・。
まあでも、その笑顔を害する気はさらさらないわけで。

「そうだな!ちゃっちゃっと終わらせようぜ!」

と笑顔でオレも応えた。


1,2,1,2とリズムに合わせてシーツを踏む。
ベッドカバーと合わせて合計10枚あった洗濯物もこれでラストだ。
思った以上の重労働にオレもリンも結構な汗をかいている。
シーツをすすぐためにリンがホースで真水を入れる。
日に当たって温くなってきた桶の水と冷たい水が混じって足に気持ちいい。
すすぎ終わったシーツの端と端を2人で持ってピンと張る。
そこから2人が逆方向にねじって水を絞る。
脱水の終わったシーツをロープに掛け、パンパンとしわを伸ばした。

「終わったー!!」

リンが大きく伸びをする。
俺もつられて空を見上げる。疲れたけど、清々しい気分だ。
縁側に座ったリンが

「疲れたけど、清々しいね!」

と言ってきた。
俺もリンの隣に腰かけながら、

「今、同じこと考えてた。」

と告げる。

「本当!?」
「うん。本当。」

リンはふふっと嬉しそうに笑った。

そんな時メイコ姉が、

「2人ともお疲れさま!のど渇いたでしょ?」

と言ってキンキンに冷えたラムネを差し出してくれた。
やったー!と受け取り、シュポンと心地よい音をたててラムネを開け

「「カンパーイ!」」

とビン同士を軽くぶつける。

冷たくて爽やかな甘さがのどを滑り落ちる。
飲みながらリンの方を見ると、リンと目が合った。

目と目で笑い合い、ラムネを飲み干す。

カランと音を立ててビー玉が転がる音がした。
そんな穏やかな日曜の午前。