サイレント・ナイト

晴れて恋人同士になった彼とこの日をどうやって過ごそうか、ずっと悶々としていた―――。

と、言いたいところだったけど、現実は理想と違い思った以上にクリスマス関係の仕事が多く、ここ最近はほとんどスタジオに篭りっぱなしの毎日で、それこそ家族の顔を見るヒマもないくらい忙しかった。
そんな忙しさも今日で一旦一区切り、仕事から解放されて自室のベッドに倒れこんだときには時刻はすでに日付が変わっていた。

「はぁー」

大きなため息が部屋に響く。
明日は昼間に少しだけ歌の仕事があって、その後は家族でクリスマスパーティーをする予定だから、クオに会えるのは26日の予定。

結局は会うわけだからいいんだけど、

だけど、、、

クリスマスという特別な日にクオに会えないのは寂しかった。

「・・・・・・歌の中の人たちはあんなに幸せそうなのになぁ」
ここ最近歌い続けていたクリスマスソングの中の恋人たちにちょっと嫉妬してみる。
歌っている自分は恋人とクリスマスを過ごせず、こんなにもヤキモキとしているというのに。

それに、とちらっと机の上にある包みを見上げる。

中身は在り来たりだけど、手編みのマフラー。
いつも寒くないのか?とこちらが心配してしまうほどの薄着のクオへのプレゼント。
仕事の合間や寝る間を削って少しづつ編み上げたもの。編み物初心者だからほとんど根性で仕上げたようなこのマフラーだって、今日プレゼントされたかったはずだ。

「うぅ〜っ会いたいよぉ・・・・・・」

サンタが実在するのなら、ソリに乗せてクオの所まで連れて行って!
とお願いするところを仕方なく枕をぎゅっと抱いて目を閉じる。

クオは一体どうしてるんだろう・・・・・・・・・。

コツン―――。
うとうとしかけた時、窓に何か当たる音がした。

「うん?」
気のせいかな、そう思ったとき

コツン―――。
もう一度音がした。

私はのろのろと重い腰を上げて音がした窓へと向かいカーテンをそっと開ける。

「・・・クオっ!?」
窓の外でクオが笑顔で手を振っていた。驚いた私は、それでも彼に会えることが余程嬉しかったのだろう、身なりも構わず急いで机の上の包みを掴むと足音を殺して家を飛び出した。


外に出るとクオは家の向かいにある外灯の下に移動していた。

「クオっ!!」
「ごめん、もしかして寝てた?」
駆け寄った私にクオは話しかけてきたので私は首を横に振って否定する。

「クオ、こそ、どうしたの、こんな、時間に・・・?」
まだ心の整理がついていなくて言葉が途切れ途切れになる私を見てクオはクスリと笑うと、乱れていたのであろう前髪をそっと撫で上げて一言。

「ミクが寂しがってる、と思って」
そう言ったかと思うと、私をそっと抱き寄せた。

「え、どっどう、してわかった、、、の??」
益々うろたえてしまって言葉が上手くつむげないでいる私の耳もとでクスクスと笑う声が聞こえる。
きょとんとしていると、身体から熱が離れ、クオが私を見つめた。

「うそ。本当は僕がミクに会いたかった。すごく」
その言葉を聞くと私は急に泣きたい気持ちになった。
でも悲しい気持ちになったからじゃなくて、嬉しさから。

だって24日に会えないことを伝えると、クオは少し残念そうな顔をしたものの結構あっさりと別の日に会おうと提案してくれた。
ハロウィンを知らなかったくらいだから、クリスマスに特別関心がないのかも知れなかったけど、こうもあっさりだと、私に会いたくないんじゃないかと落ち込んだ日もあったというのに。
自分の都合のせいでそうなってしまったとはいえ、内心ではもうちょっとクオに粘ってもらいたかったのだ。


「会えて、よかった」
「私も会いたかった、すごく・・・」

自分の想いを伝え、静かに目を閉じると、ゆっくりと優しいキスが降ってくる。

それだけで私の心がすーっと溶けてしまうのがわかるほどだ。


「そういえばプレゼント、あるんだ」
唇が離れたあとクオがそっと囁いた。
その瞬間、私は手に持っていた存在を思い出す。

「私もクオにプレゼントあるの・・・!」

コレ、と勢いよくクオに渡す。
受け取ったクオは嬉しそうに開けていい?と聞いてくる。
私は頷いたものの、喜んでくれるだろうかという不安と、中身のできに恥ずかしくなって下を向いてしまう。

「わぁ、マフラーだ・・・!」
クオの声が聞こえ私は恐る恐る視線を上げると、クオは早速マフラーを首に巻いていた。

「あったかい・・・」
「編み物、初めてだったから目とか飛んでてあんまり上手じゃなくて・・・ごめんね」
苦し紛れに言い訳して謝ると、クオは目を大きくして否定する。

「ミクが僕のために編んでくれたのが嬉しい、、、ありがとう」

そう言ってクオは優しく微笑み、マフラーに少し赤くなった顔を埋める。
その様子を見てがんばって編み上げた甲斐はあったかも、と私は嬉しくなった。


「それじゃあ、次は僕の番だね。ミク目つぶって・・・」

私はクオの言葉に素直に目を閉じる。
ガサゴソと何かを開ける音が夜空に響く。

そして首筋に感じる冷たい感触。

「目、開けていいよ」

ゆっくりと目を開け、視線を首元に持っていく。

「かわいい・・・!」
自然と言葉が零れた。

鈍い輝きを放つ華奢なシルバーチェーンにトップはオープンハート。
アクセントに淡い透明感のある黄緑の宝石。多分、ぺリドット。私の誕生石―――。

「僕の見立てもなかなかだね」

あたかもそこが定位置のように、しっくりと肌になじんでいるネックレスを見て満足気に頷くクオに私は思わず抱きつく。

「嬉しい・・・!ありがとう・・・・・・大好き」
最後の言葉は小声でしか言えなかったけど、クオにはちゃんと届いたようでぎゅっと抱きしめられた腕に力がこもったのがわかった。

星空のイルミネーションに外灯のスポットライト
夜の静謐な空気に目の前には愛しい存在

世界で一番幸福な聖夜―――。