爪の余白
オレが風呂から出た時、リンはまだ髪を濡らしたまま、短パンとキャミソールという薄着でソファに座っていた。
何をしているんだろうと思い覗き込めば、リンは真剣な顏でマニキュアを塗っている。
ちょうど右の小指、ラスト1本を塗り始めるところだった。
はけをビンの口でしごき液量を調節して、すっと爪の中央に色をのせる。
そしてまたはけをビンに戻し、同じように口でしごいて液量を調節して、
今度は残った両サイドをゆっくりとムラがないように塗る。
メイコ姉直伝の塗り方で丁寧にマニキュアを塗っているリンは、普段とは全然雰囲気が違った。
爪を塗り終えたリンは、ふうっと一息ついてこちらを向いた。
「あっ、レンお風呂出たんだ」
緊張が解けたのかほにゃりと柔らかい微笑みを浮かべている。
「髪、乾かすのが先だろう。ふつう。風邪引くよ」
とリンの濡れた髪をオレは一束つかむ。
「爪、はげてるのが気になっちゃって」
手をひらひらさせてマニキュアを乾かしながらリンがしゃべる。
完全に乾くまで次の作業はムリであろう。
「そうだ、レン乾かして!」
いいことを思いついたみたいにリンがお願いしてきた。
「仕方ないなー」
口先ではしょうがなそうに言うけど、実はリンにお願いされるのはイヤじゃない。
まあ、惚れた弱みだろう。
ドライヤーを取り出して温風を髪に当てる。指を入れて髪の根元に風が当たるようにする。
距離も10センチは離して、自分の髪を乾かすときより丁寧にリンの髪を乾かす。
フワッといい香りが漂った。
シャンプーは同じもののはずなのに、まるで違う香りに感じる。
髪質だって双子だから大差ないはずなのに、リンの髪は自分とは違って細くて柔らかい。
他にも、露出している肩や腕も、筋肉があんまりなくて華奢で女の子なんだなーと実感してしまう。
そんなことを考えてる内に髪が乾いたのでドライヤーを止める。
乾かしすぎも髪によくないのだ。
「ありがとう、レン」
前を向いたままリンが言う。
「私、レンに髪乾かしてもらうの好きだよ」
「そう?痛いとか、熱いとかない?」
「ううん。すごく気持ちいいよ。指使いが優しい感じがする」
リンはくるっとオレの方に向き直った。
乾いた髪が肩の辺りでサラリと揺れる。
見下ろす形と見上げる形で視線があう。
そのまま、近づいてオレはリンの唇にそっとキスを落とした。
2人の間には同じシャンプーの香りが漂っている。