夜のお菓子
どこからか卵とハチミツのいい香りがする。
ソファに座っているリンをのぞき込めば、紙袋から何か丸いものを取り出して食べている。
「何食ってるの?」
リンが食べる手を止める。
「これ?鈴カステラだよっ。ミク姉のお土産だって」
的屋で売っていた鈴カステラがおいしかったんだって、とリンが教えてくれる。
「ふーん」
リンは再び食べ始める。
一個食べてはまた一個と絶え間なく鈴カステラを口に運ぶ。
一口サイズの黄色いカステラ。
摘み取るリンの指。
忙しなく動く口元。
じーっと見過ぎていたのだろう、リンがこちらを見る。
「レンも食べる?」
「じゃあ、1つもらおっかな」
「ハイ」
と紙袋をこちらに傾ける。
けどオレは袋じゃなくてリンの手首を取る。
「イヤ、こっちでいいよ」
そう言ってリンが持っていた一粒をパクッと口に含む。
ついでに指もちょろっと舐める。
「うん、うまい」
卵とハチミツの味が口一杯広がる。
リンはというとその行為にあ然としていた。
「・・・・・・レン、食べるなら自分で取ったの食べてよ」
「こっちの方が近くにあったから」
ハァと呆れた顔でリンがため息をつく。
でもそれ以上はつっこまず、また鈴カステラを食べ始める。
「鈴ってさ、」
「うん?」
「リンって読むよね」
ニコッと微笑めば、リンの動きが止まり顔が引きつる。
「リン、食べちゃたね。おいしかったよ」
リンの顔が今度はカァァァッと赤くなる。
本当にころころ表情が変わる。
そんな所がとてもかわいくて、もっといじめたくなる。
「こっちのリンも食べちゃおっかな」
パサッと中身の減った紙袋がリンの手から落ちる音がした。